環境研究総合推進費 戦略的研究開発課題(S-21)

代表挨拶

 本研究プロジェクト(S-21)は、2016年度から2020年度までの5年間にわたって実施された環境研究総合推進費 戦略的研究開発領域課題(S-15)「社会・生態システムの統合化による自然資本・生態系サービスの予測評価」(PANCES)(研究代表:武内和彦)の後継プロジェクトとして立ち上がりました。S-15では4つのテーマが設定され、合計で15のサブテーマが全国スケールと事例研究サイト(能登・佐渡、北海道厚岸町、沖縄)で連携して研究に取組み、新規性、有用性、発展性のある研究成果を数多く生みだしました。その意味ではS-21はS-15で得られた研究成果をさらに発展・高度化することを目指しています。

 本研究プロジェクトの構想に先立ち、まずは2021年8月に環境省側が作成した戦略的研究開発(FS)のための行政ニーズ「生物多様性と社会経済課題を統合的に扱う評価手法の構築に関する研究」が作成されました。この行政ニーズ文書のなかでは「これまでに S-9 において生物多様性の損失の定量的評価が、 S-15 において生態系サービスの変化まで含めた静的な評価・シナリオ分析が行われてきたが、気候変動を含む他の社会経済課題や変化のプロセスまで含めて統合的に扱う動的な評価手法の構築には至っておらず、これらを発展させた新たな研究開発が必要である」と明記されています。この行政ニーズには、将来シナリオ分析の時空間スケール、社会経済活動と生物多様性・生態系サービスの統合的な評価といった組み込むべき要件などが明記されています。

 この行政ニーズ文書に基づき、S-21の5名のテーマ代表(齊藤修、山野博哉、深町加津枝、橋本禅、吉田丈人)が2021年度の環境研究総合推進費の戦略的研究開発(FS)に応募し、2022年4月から1年間を準備期間としてフルスケールでのプロジェクト立ち上げに取組みました。このFS期間では環境省が設置した専門部会との間での意見交換の場が複数回設けられ、そこでの助言をもとに研究計画の具体化が進められました。最終的には書類審査と面接審査を経て、2023年3月に5つのテーマ、合計20のサブテーマからなるS-21が正式に採択されました。2023年8月時点で、S-21に登録されている研究者(学生を除く)は約140名です。

 なお、FS期間中には、2022年12月に生物多様性条約第15回締約国会議で採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」(GBF)が採択され、それを踏まえて我が国では「生物多様性国家戦略2023」が2023年3月31日に閣議決定されました。国家戦略2023では、2030 年までに、『ネイチャーポジティブ:自然再興』を実現することが明記されました。ただし、ネイチャーポジティブの具現化やGBFで定められた23の目標を国や地域レベル、さらには民間セクターで適用していくには多くの課題があり、S-21での研究を通じて今後の生物多様性の国家戦略や地域戦略の見直し、民間セクター等による自然関連財務情報開示(TNFD)に貢献していきたいと考えています。また、研究期間を通じて積極的に社会に情報発信すると同時に、行政だけでなく多様な主体からの研究ニーズに耳を傾ける対話型スタイルで研究を展開していきたいと考えています。

2023年9月25日

公益財団法人地球環境研究戦略機関(IGES) 生物多様性と森林領域 上席研究員
齊藤 修

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